交通事故で健康保険を積極的に利用すべき理由
事故で怪我を負った場合、治療のために入通院する必要がでてきます。
ここで発生する治療費は、本来であれば加害者側が負担すべきものなのですが、速やかな治療を開始するために、あえて被害者自身の健康保険を使うことがあります。
ここでは、事故による怪我治療で積極的に健康保険を使うべき理由について解説します。
健康保険を利用すれば賠償金額を減らさずに済む
交通事故の責任は加害者と被害者の双方にあるとされ、その程度を示したものを過失割合と呼びます。
被害者としては、事故を起こした加害者側に10割の責任があると考えがちですが、事故処理の実務においては、被害者だからと言って過失が0とされるケースはそう多くありません。
つまり、加害者の過失が9割で被害者の過失が1割とされた場合、治療費が100万円かかっても相手に請求できるのは90万円までということになります。
しかし、被害者としては、できるだけ加害者から賠償金を獲得したいと考えますので、そこで健康保険が役に立つことになります。
先述の例では、被害者の負担分は10万円ということになりますが、健康保険を使って治療を受けた場合は金額が変わってきます。
健康保険は自己負担3割ですので、治療費100万円のうち実際に窓口で支払うのは30万円となります。
過失割合を加害者9割とした場合、実際に支払った30万円のうち27万円を請求することができるので、最終的な自己負担分は3万円で済みます。
このように、健康保険を使うことによって全体的な自己負担分を減らし、加害者に請求できる金額を増やすことが可能になるのです。
加害者が自賠責保険にしか加入していなかった場合はさらに有効
加害者が自賠責保険にしか加入していなかった場合、自賠責保険の上限額を超えない範囲でしか補償を受けることができません。
傷害の場合の賠償金は最高で120万円なのに対し、請求すべき費目は治療費だけでなく、休業損害や入通院慰謝料等様々なものを含みます。
つまり、多額の治療費をそのまま請求してしまうと、その他の費目に対する賠償金額が著しく減ってしまうのです。
そこで、健康保険を使うことによって治療費分の賠償を抑え、その分を慰謝料や休業損害に充てれば、自賠責保険の上限額を上手に使って賠償請求することが可能になります。
健康保険を積極的に使うべきその他のケース
健康保険を賢く利用することにより、加害者に請求できる賠償金額を増やせるのは前述の通りです。
この他にも、以下に当てはまるようなケースで、健康保険利用のメリットを享受することができるでしょう。
相手方保険会社との交渉が難航している場合
事故原因について被害者にも相応の責任があるとして、相手方保険会社が治療費の支払いになかなか応じないケースがあります。
この場合、被害者としては速やかに怪我治療を行う必要がありますので、まずは健康保険を使ってすぐに治療を開始し、かかった費用を後から請求することができます。
相手方保険会社から治療費を打ち切られた場合
事故発生からしばらく治療費を負担していた相手方保険会社が、数カ月ほど経過したころに、治療費負担の打ち切り通告をしてくることがあります。
保険会社としても、被害者の治療が終了しそうなタイミングで声をかけてくるのですが、実際にはまだ治療期間を要する場合も少なくありません。
こういった時は、速やかに健康保険による治療に切り替え、かかった治療費の領収証や診療報酬明細書等を保管しておき、後から賠償金に含めて請求するようにします。
被害者の過失割合が比較的大きな場合
過失割合が影響し、加害者に請求できる金額が変化することはすでに述べた通りです。
注意すべき点は、被害者の過失割合が3割や4割等、比較的大きかった場合にあります。
加害者の過失が圧倒的に大きいと思い込み、健康保険を使わず治療を受けた場合、費用は大きく膨らみます。
その額を実際に加害者に請求できれば良いのですが、被害者の過失も相当に大きいと認められた場合、被害者が負担する治療費が一気に大きくなる可能性があるのです。
このようなケースでは、最終的に受け取る賠償金額が著しく減少してしまうことになりかねません。
従って、自らの過失が大きいと思われる時も、積極的に健康保険を使って治療を受けるべきだと言えるのです。
健康保険の利用は弁護士から助言を受けるのがベスト
世の中には、「交通事故で怪我をした場合は、健康保険は使えないので、自由診療になります。」と説明する医療機関や、
「被害者なのだから、よい治療を受けるため、健康保険を使わないで、自由診療を受け、きちんと加害者に支払ってもらった方がよい。」と勧める物知りがいます。
しかし、どちらも真っ赤な嘘であり、鵜呑みにすると大損をします。
交通事故によって怪我をした場合であっても、健康保険による診療を受けることができるのです。
自由診療によると、治療費が約2倍にもなります。
自由診療で治療を受けたため、支払限度が法定されている自賠責保険の傷害保険金を治療費だけで食いつぶされてしまったり、被害者に過失がある場合には、治療費として医療機関に支払われた後の金銭で支払われる損害賠償金の残額が少なくなってしまうこともあるのです。
また、医療機関のいうがままに治療を受けた結果、不必要に高額の治療がなされ、いわゆる「過剰診療」、「濃厚診療」となって、損害賠償の対象とならない場合もあるのです。
交通事故によって怪我をした場合であっても、健康保険による診療を受けることができるのですから、このようなトラブルに巻き込まれないように、むしろ健康保険による診療を積極的に活用しなければなりません。
交通事故を得意とする弁護士であれば、被害者の保険利用についても十分な知識を携えています。
自分の場合は健康保険を使うべきか、病院に断られたらどうしたら良いか等、様々に浮かんでくる疑問や不安については、ぜひ当事務所弁護士までご相談ください。
電話相談では基本的に弁護士が直接対応しており、きめ細やかな中身のある相談が可能になっています。
また、保険の使い方だけでなく、今後の展望等も含めて丁寧にご説明していきますので、一人で抱えることなくぜひご一報ください。
前田 尚一(まえだ しょういち)
前田尚一法律事務所 代表弁護士
出身地:北海道岩見沢市。
出身大学:北海道大学法学部。
主な取扱い分野は、交通事故、離婚、相続問題、債務整理・過払いといった個人の法律相談に加え、「労務・労働事件、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」も取り扱っています。
事務所全体で30社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。