- 獲得金額
- 3425万円
- 受傷部位
- 後遺障害等級
死亡
事案・ご相談内容
被害者 | 83歳・女性・無職 |
---|---|
死傷の区別 | 死亡 |
獲得金額 | 3425万円(保険会社最終提示額2414万0140円) |
裁判所・事件番号 裁判年月日 |
札幌地方裁判所平成29年(ワ)第2449号 平成30年9月27日和解 |
法的問題点
実務上,家事専業者については,家事労働に専念する妻は,平均的労働不能年齢に達するまで,女子雇傭労働者の平均賃金に相当する財産上の収益を挙げるものと推定するのが適当であるとする判例(最高裁昭和49年7月19日判決)を踏まえ,原則として,死亡した年の賃金センサスの女性の学歴計・全年齢平均賃金を採用するが,被害者の年齢,家族構成,身体状況及び家事労働の内容等に照らし,障害を通じて,この平均賃金に相当する労働を行い得る蓋然性が認められないなど,特段の事情が存在する場合には,死亡した年の賃金センサスの女性の学歴計・年齢別平均賃金を参照して,適宜減額するのが通例である。そして,被害者の年齢が60歳を超えている場合には,死亡した年の賃金センサス女性労働者の学歴計の該当年齢層の平均賃金を用いることもある。
さらに,「三庁共同提言」においては,夫と二人で年金による生活をしている74歳の専業主婦について,終了可能期間をその余命の半分に相当する期間とした上で,基礎収入につき該当する年の賃金センサスの女性労働者の学歴計の65歳以上の平均賃金の7割相当とした例や,同様の生活状況の88歳の専業主婦について,その家事労働はもはや自ら生活していくための日常的な活動と評価するのが相当であって逸失利益の発生は認められないとした例が挙げられており,高齢の専業主婦の基礎収入は,低くかつ不安定である。
サポートの流れ
項目 | サポート前 | サポート後 | 増額幅 |
---|---|---|---|
逸失利益 | 7,027,328 | 8,653,541 | 1,626,213 |
慰謝料 | 16,000,000 | 23,000,000 | 7,000,000 |
葬儀費用 | 1,073,582 | 1,073,582 | 0 |
その他 | 703,555 | 2,187,202 | 1,483,647 |
既払金 | ▲664,325 | ▲664,325 | |
合計 | 24,140,140 | 34,250,000 | 10,109,860 |
単位:円 |
保険会社の最終提示額が2420万円足らずであったため,訴訟を提起することとしたが,高齢の専業主婦の基礎収入は,低くかつ不安定であり,和解による解決が適切と読み,進めることとした。
そして,有利な内容の和解案の提示を受けることができるための,切り口として,被害者が夫の介護を担っていたことを捉え,総合的あるいは相関的な考慮要素となるよう,この事情を夫の将来介護費と構成する書面を提出するなどし,1000万円を超える和解額を獲得する成果を得た。
解決内容
裁判所は,正面から,夫の将来介護費を認めなかったが,逸失利益の基礎収入について,被害者が夫の介護を担っていたことを踏まえ,三庁共同提言の具体的適用例に見られる減額を行わないこととした和解案を勧告し,和解金額3425万円の和解が成立した。
所感(担当弁護士より)
高齢の専業主婦の事案であり,逸失利益については,低め不安定の傾向があるため,和解による解決が相当な案件と分析し,損害各費目の構成を工夫すると共に,被害者による自宅介護を受けていた被害者の夫が有料老人ホームに入院し,介護費用の支出を余儀なくされたことを夫の逸失利益と構成して主張するなどして衡平に適った和解額の算定を訴求して,保険会社の最終提示額を1000万円以上を超えた和解金を獲得した。
この点について主張した準備書面は次のとおりである(なお,このような事情を逸失利益と認めた裁判例はごくわずかであり,和解事案として解決されたからこそ,事情を汲まれたものといえる)。
(参考)
平成29年(ワ)第2449号 交通事故に基づく損害賠償請求事件
原 告 X外2名
被 告 Y
次回期日 平成30年7月11日午前11時30分第 2 準 備 書 面
平成30年5月31日
札幌地方裁判所民事第1部4係 御中
原告ら訴訟代理人弁護士 前 田 尚 一 ㊞
原告Xは,その将来の介護費用などに係る損害について,次のとおり,従前の主張を敷衍し,整理・補充して請求する。なお,略語等は,本書面で新たに用いるもののほか,従前の例による。
第1 被告の責任原因
1 亡Aの生存中,自宅で亡Aから介護を受けていた原告Xは,亡Aが死亡したため,北海道旭川市○○○○所在の住宅型有料老人ホーム凜(以下「本件介護施設」という。甲5,6)に入居して介護を受けざるを得ないこととなった。そのため,原告Xは,今後,介護費用などを支出し続けなければならないところ,この支出は,本件事故と相当因果関係のある損害として,被告は,これを賠償する責任を負う。
すなわち,介護の必要性は,亡A自身ではなく,原告Xにあるもので,上記支出は,いわゆる間接損害にあたるものであるが,原告Xの介護は,原告X及び亡Aの経済的一体性の認められる生活において直接的に,亡Aの家事労働において対応されていたものであるから,上記損害は,被告において賠償すべきものである。2 ところで,被害者が近親者の介護・監護ができなくなったことによる損害の請求が認められた裁判例として,次のものがある。
受傷のため,痴呆状態の母親の介護を自ら行うことができず,施設による介護を受けさせるための費用48万円余を損害と認めた事例(横浜地裁平成5年9月2日判決・交民集26巻5号1151号),実母(障害等級1級の精神障害者)の介護のため,仕事に就けず生活保護を受けていた被害者が,受傷のため母の介護をすることが困難になり,職業的介護人を頼んでその費用を負担した場合に,同費用は間接損害であるが,母及び被害者の生活に直接的に関わるもので,しかも費用は被害者が出していることから,賠償すべきものとした事例(東京地裁平成10年6月19日判決・交民集31巻3号881頁)。
もっとも,上記各裁判例は,いずれも,介護に係る支出が被害者自身の損害として認めた事例である。
しかしながら,上記各裁判例が,いずれも被害者の傷害事案であるからであって,被害者の死亡事案においては,被害者自身の損害であることに囚われるのは相当ではない。民法709条の文言に,「他人の権利又は法律上保護された利益を侵害した者」が賠償すべき損害の限定がないのにもかかわらず,その他人に生じた損害に限る合理的理由がなく,特に相続事案においてはなおさらである。このことは,例えば,被相続人に対し誤った節税対策を教示した税理士が,相続開始後,つまり被相続人死亡後,相続人が本来負担する必要がなかった余分な相続税などの納付を余儀なくされたような場合において,被相続人に責任を負いようがない同税理士が,相続人に対しても全く責任を負わないという結論が明らかに不当であることを考えれば、容易に理解できるところである。第2 原告Xの損害
1 原告Xの将来の介護費用などを被告が賠償すべきものであるところ,原告Xが自宅で亡Aから介護を受けることができなくなって余分にかかることになった費用は,本件介護施設に支払う基本生活費(入居料)の内の家賃及び管理費並びに介護保険の1割負担金分(利用料)である(甲6の1・2,甲7~14)。
(1)基本生活費(入居料)の内の家賃及び管理費
基本生活費(入居料)は1か月当たり合計8万5000円であり(甲7,9,11.13),その内訳は,次のとおりであり(甲6の2),家賃及び管理費の合計額は,3万3000円である
ア 家賃 2万8000円
イ 食費 3万2000円
ウ 水道光熱/共益費 1万0000円
エ 暖房費(10月から4月) 1万0000円
オ 管理費 5000円
(2)介護保険の1割負担金分(利用料)
1か月ごとに変動があるところ,入居後直近の金額は,次のとおりであり,平均額は,2万6237円である。
(計算式)
(27,298+26,292+26,647+24,707)÷4=26,237.5
ア 平成30年2月分 2万7298円
イ 同年3月分 2万6292円
ウ 同年4月分 2万6647円
エ 同年5月分 2万4707円2 以上によると,賠償の対象とすべき介護費用等の1年間の合計額を71万0844円と算定することができるが,原告Xは,本件介護施設に入居時89歳であったところ,満94歳まで平均余命5.00年(平成28年平均余命表より)までの間,上記介護費用等の支出を余儀なくされるところ,これを前提に,ライプニッツ方式(計数は4.3295)により年5分の割合による中間利息を控除し,上記介護費用等の現価を算定すると,307万7599円となる。
(計算式)
(33,000+26,237)×12=710,844
710,844×4.3295=3,077,599.098第3 原告Xの請求
原告Xの請求権額は,従前主張の損害費目に係る2087万7752円(訴状の第2の6(1))に,原告Xの損害として,前記第2の2の307万7599円を加算した金額である2395万5351円となるところ,現時点では,被告に対し,その一部請求としての2087万7752円に弁護士費用205万円(同7(1)参照)を加算した2292万7752円及びこれに対する年5分の割合による損害金の支払を求める。
なお,本件が,和解による早期の解決ができないことが明らかになった場合には,他の損害費目,特に亡Aの家事労働に係る逸失利益との兼ね合いも踏まえ(なお,最高裁昭和48年4月5日第一小法廷判決・民集27巻3号419頁),請求の拡張をする予定である。
以上
前田 尚一(まえだ しょういち)
前田尚一法律事務所 代表弁護士
出身地:北海道岩見沢市。
出身大学:北海道大学法学部。
主な取扱い分野は、交通事故、離婚、相続問題、債務整理・過払いといった個人の法律相談に加え、「労務・労働事件、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」も取り扱っています。
事務所全体で30社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。
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