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2016年6月 3日 公開 平成22年(ワ)第452号原告の農業収入(売上)

 被告は,平成22年9月27日付け準備書面において,《原告の農業収入(売上)は,本件事故の前後を問わず,年間3000万円超を計上していることは明確であり,特段の減収は認められない。》と主張する。
 しかしながら,以下で述べるとおり,このように主張して原告の休業損害を否定するのは,農業を営む原告の休業損害についての理解を欠くものとして失当であって,被告の主張にかかわらず,原告の休業損害を算定することが可能である。なお,略語等は,本書面で新たに用いるもののほか,従前の例による。

1 事業所得者(個人事業者)の休業損害,すなわち治療期間中の休業ないし不十分な稼働状況により,事故がなければ得られたであろう収入を失ったことによる損害について,給与所得者の場合と同様,原則として事故前の収入額とを基礎として算定されるのが原則的取扱いである。
   しかしながら,損害の認定が虚構といってよいものに大きく左右されざるを得ない交通損害賠償事件において,有職者の休業損害が,原則的に事故前の収入額を基礎として算定されるのは,事故前の収入額が実数として把握しやすく,全年齢平均賃金その他の統計的数字を用いるより,被害者の個別具体的事情が反映される点で合理的であるということだけにあるのではない。
   かかる取扱いが原則的にされるのは,事故がなければ治療期間中に得られたであろう収入額を事故前の収入額と近似するという虚構にも一定の合理性があるのが通例であるからにほかならない。
   そして,実数を把握してされる場合の休業損害の算定もまた,本来的には虚構であるが,他の損害費目と同様,算定に当たっては,可能な限り個別具体的事情を反映させ,より精緻に判断していく必要がある。この必要性は,例えば,事故前の実収入額が全年齢平均賃金よりも低額である比較的若年の被害者の逸失利益を算定するような一般的・抽象的で緩やかな立証方式が採用せざるを得ない場面においてでさえも要請されていることである。
  
  
2 これを,原告について検討すると,次のとおりである。
   まず,治療期間中の休業ないしは不十分な稼働状況により,事故がなければ得られたであろう収入を失ったことによる損害である休業損害の性質上,原告の収入のうち,原告の稼働状況が影響する収入である事業収入だけを判断の対象としなければならない。
   すなわち,《▲氏の労働状況が直接影響する事業所得に絞って,その影響をみるべきである》(甲16の「1.所得の内訳」)。
   そして,事業所得者の場合,労働の対価は売掛債権という性質がある以上,回収という視点をもって観察する必要があり,期間的な対応関係などによる修正を施さなければ,適切な実数を把握することはできない。
   
   原告の場合,上記の観点から適切な修正をすると,甲第16号証の「2.事業所得の推移」に甲第17号証で訂正を加えたものとなる。
  平成12年度   293万6861円
  平成13年度   228万0634円
  平成14年度   318万4254円
  平成15年度  ▲ 18万8891円
  平成16年度  ▲525万9158円
  
   したがって,この段階で思考を停止したとしても,被告の主張が失当であることは明らかである。
   なお,本件事故が起きた後間もなく,長男▲◎(以下「◎」という。)が,原告に代わって農作業に従事するようになったが,その労働の対価が経費としては控除されておらず,事業所得の減少の程度はさらに大きい。


3 しかし,原告の事業は,農業であって,天候によって生産量が,需給関係によって価格が影響し,収入は大きく変動する。すなわち,《販売額は生産作物に係るものである。自然を相手とする事業であることから,同じ生産規模であっても,年度によって生産量,販売額にはバラツキがある。》(甲15の1の「①販売額」)。
   したがって,事業収入に絞っても,上記の生産量,販売量のばらつきに照らすと,事故がなければ治療期間中に得られたであろう収入額を事故前の収入額と近似するということはできず,次のとおり考えるのが合理的である。
   収入の減少
     原告の収入について,生産作物ごとの収入額(販売額)の推移をみると,甲第15号証の「2.生産面積及び販売額」のとおりである。
  ア 馬鈴薯の売上高
       《平成13年度は,事故のあった年度である。馬鈴薯の売上高が著しく下がっていることがわかる。事故のため,夏の防除作業ができず,販売できる馬鈴薯があまり収穫できなかった。》。
       そして,《▲■氏は事故当時において,農業従事経験が30年に及ぶベテラン農業経営者であった。平成13年6月末に事故にあって以降,平成13年11月末までは旭川市内の病院への入院を余儀なくされており,この間は全く農作業に従事していない。事故直後より長男である◎氏が,▲■氏の行う業務を引継いだが,農業経験の全くない◎氏がその代役をこなせるはずはなく,これにより本来であれば得られた利益が得られなくなったといえる。》(甲16の「3.▲氏の休業による生産額の減少」の「 馬鈴薯売上高の減少」)。
      
       これについての実数に基づく分析は,甲第16号証のとおりであり(3,),平成13,14年度の馬鈴薯生産に係る収入の減少は,次のとおり算出されるから,いずれも収入減は500万円を下らない。
       この収入減は,まさに治療期間中の休業ないし不十分な稼働状況により,事故がなければ得られたであろう収入を失ったことによる損害である休業損害として評価されるべき実態を持つ。
    平成13年度  524万4千円
     (計算式) 9,114千-3,870千円=5,244千円
    平成14年度  551万円
     (計算式) 10,156千-4,646千円=5,510千円
  
  イ キャベツの売上高
       平成13年度については,キャベツ生産について,80万円程度の収入減が認められる。

  人件費の増加
     前記アのとおり,原告の技術,経験には及ばず,完全には代替的な役割を果たすことはできなかったものの,本件事故が発生した後すぐに◎が,原告の行っていた業務を引き継いだ。
     《◎氏は■氏が従来行っていた作業(主にトラクター作業)を行っており,アルバイト作業者が行う作業は行っていない。また,■氏も事故後作業統括者として働いており,アルバイト作業者の代替にはなっているわけではない。》(甲17)。
     ◎の労務提供は,不完全ながらも代替労働力として一定の収入減少を回避したものと考えられ,◎に係る雇用費用相当額は,原告の休業損害を構成するといわなければならない。
     税法上経費として認められなかったものの,平成13年度には,給与として115万円が実際に支払われた(甲17の「1.平成13年における長男◎氏に対する給与支給」)。
     また,平成14年度は,確定申告において経費とされた給与額は50万円であるが,同年に実施された税務調査の結果を踏まえ,税法上専従者控除となる範囲で計上したものにすぎない。実際の支給額は明らかではないが,税法上の制限を認識せずに平成13年度に支払われた給与の日当水準が適用されていたと考えるのが合理的であり,実際に支給された給与額は200万円を下らないと推認される(甲17の「2.平成14年における長男◎氏に対する給与支給」)。
     したがって,人件費の増加による休業損害は,平成13年が115万円,平成14年が200万円と認めるのが相当である。
    
  以上のとおりであるから,次の表のとおり,休業損害額は,平成13年度が695万円,平成14年度が700万円と認めるのが相当である。
                                                                           
                 │馬鈴薯の│キャベツの│人件費支出│ 合 計│                
                 │生産・販売│生産・販売│に係る損害│        │                
                 │に係る損害│に係る損害│        │        │                
     │平成13年度│500万円│ 80万円│115万円│695万円│                
     │平成14年度│500万円│        │200万円│700万円│                


4 もっとも,以上述べたところは,原告の休業ないし不十分な稼働状況が収入に影響する限りにおいて妥当するものであって,代替労働力が確保された以降は合理性を欠く説明となるであろう。
   《▲■氏に代わってトラクター業務を行うようになった■氏の長男◎氏は,平成15年度には作業に慣れてきた。まだ一人前ではなかったものの,■氏の指導監督のもと,一通りの作業をこなせるようになった。》(甲18)。
  
   そして,代替労働力が確保された以降においては,代替労働力の雇用費用を,休業に関して発生する損害として把握するのが,本来的に虚構といってよいものに大きく左右されざるを得ない交通損害賠償事件において,損害額の認定を,被害者の個別具体的事情を反映してより精緻に判断するものとして適切である。
   このような観点からすると,本件では,◎の雇用費用相当額を,原告の休業損害と考えるべきところ,親族に支給する給与の経費化の制度的制限から◎に係る労務費的支出に原告の申告所得額に反映できない部分があること,実際の必要にかかわらず,農業所得との兼ね合いで,経費化できる◎の給与を減額して調整していること,経費化できる◎の給与を減額しても,現実には◎の生活維持のため原告の所得の中から一定の負担を余儀なくされることなどを勘案すると,◎の労働に対する妥当な対価をもって,代替労働力の雇用費用として,原告の休業損害と考えるべきである。
   そして,平成15年度の給与額が◎の労働に対する妥当な対価を算定していることを勘案すると,平成15年度,平成16年度については,実際に支給した金額を休業損害と認めるのが相当である(甲18)。
   これに対し,平成17ないし19年度については,給与額が激減しているが,農業事業が厳しくなることを想定してされたものであるところ,実際には給与として支給した金額だけでは◎の生活が成り立たず,原告が生活費の面倒をみていたことを考慮すると,原告として代替労働力を確保するため支出として200万円を下らない支出があったと考えられる(甲18)。
   
    したがって,原告の休業損害額として,平成15年度は271万円,平成16年度は230万円,平成17ないし19年度は200万円と認めるのが相当である。
  

5 以上の検討によると,原告の休業損害額は,平成13,14年はいずれも500万円,平成15年以降症状固定までは200万円とするのが相当である。


6 なお,仮に上記構成が何らかの理由で採用されないとしても,以上の事情を慰謝料を増額させる一事由として考慮するのが相当であり,原告の治療期間に見合う基準額に上記4の金額を加算した額をもって受傷に対する慰謝料の額とするのが相当である。
   また,上記構成が何らかの理由で採用されない場合であっても,上記の事情に照らすと,原告に一定の休業損害が発生していることまでも否定することはできないから,幼児,生徒,学生,専業主婦など金銭収入の喪失という形で損害の算定ができない場合であっても,後遺症ないしは死亡による逸失利益の場合と同様な,緩やかな立証方式が採用され,全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金を基礎収入として休業損害が算定されていることとの均衡についても配慮されるべきである。



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