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2016年5月 9日 平成24年(ワ)第2534号


札幌地方裁判所判決
平成24年(ワ)第2534号
損害賠償請求事件
平成25年10月17日民事第2部判決


       主  文

 1 被告らは、原告に対し、連帯して2756万3528円及びうち2506万3528円に対する平成24年1月21日から、うち250万円に対する平成22年3月21日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用は、これを4分し、その1を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。
 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求
 1 被告らは、原告に対し、連帯して3603万6474円及びうち3276万6474円に対する平成24年1月21日から、うち327万円に対する平成22年3月21日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 訴訟費用は被告らの負担とする。
 3 仮執行宣言

第2 事案の概要
   本件は、原告が、後記1(1)の交通事故(以下「本件交通事故」という。)につき、被告Y1(以下「被告Y1」という。)に対しては民法709条に基づき、被告Y2会社(以下「被告Y2会社」という。)に対しては同法715条及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条本文に基づき、損害賠償を求めた事案である。
 1 前提となる事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等)
 (1)本件交通事故の発生(甲1及び2)
        日時 平成22年3月21日午後2時9分ころ
        場所 北海道雨竜郡幌加内町字北星8046番地
        事故態様 原告運転の普通貨物自動車(以下「原告車両」という。)がT字型交差点を左折し終えて直進進行を始めたところ、対面直進してきた被告Y1運転の大型貨物自動車(以下「被告車両」という。)がセンターラインを超えて原告進行車線に侵入し、原告車両と被告車両が衝突した。
 (2)被告らの責任原因
    被告Y1には、自己の車両通行帯を維持して車両を直進進行させる義務があるのに、これを怠って被告車両を反対車線に侵入させて本件事故を発生させた過失があるので、被告Y1は、原告に対し、民法709条に基づく損害賠償責任を負う。被告Y2会社は、本件事故当時、被告車両の運行を支配し、かつ、運行による利益を享受していたものであり、かつ、本件事故は被告Y2会社に使用されている被告Y1が被告Y2会社の事業の執行として被告車両を運転して発生させたものであることから、被告Y2会社は自賠法3条ないしは民法715条1項に基づく損害賠償責任を負う。
 (3)原告の受傷及び休業等
     ア 受傷及び後遺症
       原告は、本件事故により右頚骨・腓骨開放粉砕骨折の傷害を負い、平成23年6月22日に症状固定と診断された(甲3)。また、原告には右足関節の機能障害の後遺障害が残り、自賠法施行令別表第二第10級11号(1下肢の3大関節の1関節の機能に著しい障害を残すもの)の認定を受けた(甲4)。
     イ 休業
       原告は、本件事故当時、30歳の男性であり、A株式会社において期間雇用社員として稼働していたが、本件事故により、132日間休業した。
 (4)損害の填補
      ア 原告は、任意保険から623万8546円の支払を受けた。
      イ 原告は、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から、平成24年1月20日に461万円の支払を受けた。
 2 争点及び当事者の主張
   本件の争点は原告に生じた損害である。
 (原告の主張)
    (1)積極損害
        ア 治療費 488万6666円
        イ 通院交通費 1万6400円
        ウ 入院雑費 12万4800円
        エ 文書代 1万8580円
        オ 転院搬送費用 12万0640円
    (2)休業損害 113万1240円
    (3)後遺障害による逸失利益 2367万0572円
       原告は、本件事故当時30歳と若年であり、勤労意欲旺盛であったことから、生涯を通じてみれば将来的に平均賃金程度の収入を得られた蓋然性があり、平成21年の賃金センサス男性学歴計全年齢平均である529万8200円を基礎収入とすべきである。また、原告の後遺障害は、骨折という器質的損傷に基づく可動域制限であり、一生涯残存するものである。
    (4)生涯慰謝料 250万円
       原告は、症状固定日である平成23年6月22日までの間、77日間の入院に加えて、383日間という長期にわたっての通院を余儀なくされ、大幅に行動の自由が制限された。かかる事情を踏まえると、傷害慰謝料は250万円を下らない。  (5)後遺障害慰謝料 800万円
       原告は、本件事故当時30歳の健康な男性であったところ、本件事故により上記後遺障害が残った。また、原告は、本件事故当時、正社員登用試験に向けて勉強を積み重ねていたが、本件事故による通院等の影響により、合格率の高かった平成22年度試験を受験できず、当該制度を利用して正社員となる機会を失った。さらに、本件事故は、反対車線から大型貨物自動車である被告車両が突っ込んできたというものであり、原告の受けた精神的苦痛は大きい。これらの事情を踏まえると、原告の後遺障害慰謝料の額は800万円を下らない。
    (6)弁護士費用 327万円
 (被告らの主張)
    (1)積極損害
          ア、イ及びオについては認める。ウの諸雑費は11万5500円(1500×77日間)が相当である。エの文書代は知らない。
    (2)休業損害
          認める。
    (3)後遺障害による逸失利益
     原告は、本件交通事故までの間、1年間の期間雇用を更新し続けるかたちで就業してきており、将来的に平均賃金以上の収入を得られる蓋然性はない。また、原告の後遺障害の程度は大きくはなく、後遺障害には寛解可能性があるほか、原告は既に仕事復帰してバイクの運転も行っており、右足を使う後輪ブレーキの操作についても代償動作を習得している。これらの事情を踏まえると、就労への支障は今後逓減していくものといえ、原告の労働能力喪失期間は10年程度と言わざるを得ない。
    (4)傷害慰謝料
       入院日数は77日間である。また、通院についても、平成22年6月は16日間、翌月は13日間通院したが、その後は1か月あたり0日ないし2日の通院にとどまっている。したがって、傷害慰謝料額は183万3300円を超えるものではない。
    (5)後遺障害慰謝料
       原告は、平成22年の正社員登用試験の受験時期には既にリハビリを開始して勤務も再開しており、受験自体が不可能であったとはいえないのであって、受験機会喪失と本件事故との間の因果関係は不明である。また、本件事故は、吹雪による視界不良で中央線の位置を把握できなかったために発生したものであり、被告Y1の注意義務違反の程度が重大であると評価できるものではない。
    (6)弁護士費用
       否認ないし争う。
    
第3 争点に対する判断
 1(1)積極損害について
        ア 治療費 488万6666円
        イ 通院交通費 1万6400円
        ウ 入院雑費 11万5500円
          原告の入院期間は77日間であるところ、1日あたりの入院雑費は1500円とするのが相当である。
            1500円×77日=11万5500円
        エ 文書代 1万8580円
            甲6号証および弁論の全趣旨によれば、本件事故により、X線フィルム複写代として上記の損害が生じたものと認められる。
        オ 転院搬送費用 12万0640円
        カ 小計 515万7786円
    (2)休業損害 113万1240円
    (3)後遺障害による逸失利益
        ア 基礎収入額について
          原告は、平成10年に高校を卒業した後、専門学校への入学及び中退を経て、平成14年からA株式会社の機関雇用社員として郵便物の配達を中心とする業務に従事してきており、(甲15)、本件事故後も、同職場に復帰して郵便物配達の業務を続けている。なお、本件事故の前年である平成21年の原告の給与所得は約330万円であった(甲7)。原告の職歴や本件事故当時の収入状況は上記のとおりであるところ、証拠(甲10ないし12及び15)によれば、原告が勤務するA株式会社においては、期間雇用社員を正社員に登用する制度が平成20年から開始されており、原告が同制度を利用して正社員に登用されることを希望し、その意欲を有していたことが認められる。そこで、原告の基礎収入については、平成23年賃金センサスによる「H運輸業、郵便業」「正社員・正職員計」である440万1700円とするのが相当である。
        イ 労働能力喪失期間について
        (ア)JR札幌病院のB医師が原告の症状固定日である平成23年6月22日に作成した後遺障害診断書(甲3)には、障害内容の増悪・緩解の見通しについて「不変と思われる。」との見解が示されている。原告が、本件事故の22日後である平成22年4月12日に地理的理由で導入員に転院し、その後、上記症状固定日までの間の約1年2か月にわたって同病院に入通院して治療を続けてきたこと、同医師は、原告のその間の治療経緯や症状の経過を踏まえて、医師としての専門的な見地から上記見解を示したものといえることからすると(なお、同医師は、平成23年4月から原告の診断を担当しているが(乙2の13)、当然に、過去の治療経過や診断等を踏まえて後遺障害診断書を作成したものと推認される。)、同見解は十分に尊重する必要がある。そして、被告らは、原告の寛解可能性について抽象的な主張をするにとどまり、具体的な反証を提出することができていない。以上によれば、本件において、原告に生じた後遺障害は、将来における改善の可能性が相当程度に低いものであると言わざるを得ない。
        (イ)上記のとおり原告の後遺障害の改善可能性が低いものであるとした場合、原則として、原告の労働能力もその後一生涯にわたって喪失されるものと推認されるべきである。これに対し、被告らは、原告の労働能力喪失期間が10年程度に過ぎないという点の根拠として、原告の後遺障害のうち可動域が健側の2分の1以下に制限されている部位が「足関節」のみであり、その程度も2分の1をわずかに上回っているものに過ぎないことから、原告の後遺障害は重いものとはいえないと主張する。これは、原告の後遺障害が将来的に就労への影響がなくなる程度に軽微であるとの趣旨のものと解される。しかしながら、そもそも歩行や屈伸といった人間の日常動作が下肢の各関節を連動されて行われる運動であり、その一部の可動域が2分の1以下に制限されることが他の関節の可動、ひいては下肢全体の運動に大きな影響を及ぼしうるものであることは容易に推測できることからすると、このように後遺障害が残存している部位足関節のみであるとの事情を単純に評価するのは妥当でない。そして、原告が陳述書(甲15)において「階段を下りるときは右膝がうまく動かない」などと述べて、足関節の後遺障害が現に他の部位にも影響を及ぼしており、基本的な日常動作に大きな支障をきたしていることを示していることからすると、原告の後遺障害は、将来的に労働能力を回復させうる程度に軽微なものであるとはいえない。原告の後遺障害が「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」(自賠法施行令別表第二第10級11号)との認定を受けていることも、同様の理解によるものと考えられる。次に、被告らは、原告がバイクでの郵便物の配達という職務にすでに復帰し、しかも、バイクの運転において右足で行う後輪ブレーキの操作について代償動作を習得していることをもって、後遺障害が就労に与える支障は逓減していくものであると主張している。しかしながら、原告の陳述書(甲15)によれば、原告は郵便配達の職務を再開しているとはいえ、アパートやマンションの階段の上り下りに支障があるために配達に時間がかかっているというのであり、また、バイクの運転に関しても、右足を着いて踏ん張ることができないために転倒することがあるというのであって、他の同僚と同じように業務を行ったりバイクを乗り回せているわけではないということは明らかである。原告がすでに職場に復帰しているとの事情は、原告の努力と職場における理解とが多分に寄与しているといえ、後遺障害が就労に与える支障が逓減していることを示す事情と評価することはできない。
        (ウ)以上によれば、原告の労働能力は一般的な就労終期と解される67歳時までにわたって喪失されるものというべきであり、労働能力喪失期間は36年間として算定すべきである。
      ウ 算定
         労働可能年数36年のライプニッツ係数は16.5469であり、後遺障害等級10級の場合の労働能力喪失率は27%とするのが相当である。
440万1700円×16.5469×0.27=1966万5312円
    (4)傷害慰謝料
       入院日数77日間、通院実日数31日間(乙2の5ないし16)であること等を踏まえると、196万円が相当である。
    (5)後遺傷害慰謝料
       原告が本件事故当時30歳の健康な男性であり、本件事故によって右下肢に後遺障害等級10級に該当する障害が残って、将来における日常生活、稼働が制限されることになったことを踏まえると、後遺障害慰謝料は550万円とするのが相当である。なお、原告は、本件事故により平成22年度の正社員登用試験の受験資格を失ったと主張するが、本件事故による受傷に起因する休業ないしは勤務制約が、同試験の資格要件及び選考方法(甲10)においてどのように原告にとっての支障となったのかについて説得的な説明をすることができていない。また、原告が本件事故態様から受けた精神的苦痛が大きいと主張する点も、本件事故発生時の状況からすると特段考慮すべき事情とはいえない。
    (6)上記小計((1)ないし(5))
          3341万4338円
    (7)既払金
        ア 原告は、任意保険から623万8546円の支払を受けている。なお、本件においてその支払日は不明であるが、原告は、同既払金が本件交通事故の日に充当されたという前提で損害額を計算しているものと解されるので、同様の扱いとする。
3341万4338円-623万8546円=2717万5792円
        イ また、原告は、自賠責保険から、平成24年1月20日、461万円の支払を受けているが、同金額はまず、遅延損害金の支払債務に充当されるべきものである。平成24年1月20日時点における遅延損害金は以下のとおりとなる。
(2717万5792円×0.05÷365日×651日)+(2717万5792円×0.05÷366日×20日)=249万7736円
したがって、自賠責保険からの既払金充当後の損害金は、以下のとおりとなる。
2717万5792円+249万7736円-461万円=2506万3528円
    (8)弁護士費用
       本件事案の性質、審理経過等を考慮すると、本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は250万円であると認めるのが相当である。
    (9)合計
          2506万3528円+250万円=2756万3528円
 3 まとめ
      被告Y1は民法709条に基づき、被告Y2会社は同法715条及び自賠法3条に基づき、原告に対し、連帯して、損害賠償金2756万3528円及びうち2506万3528円に対する自賠責保険からの既払金の支払日の翌日である平成24年1月21日から、うち250万円に対する本件事故日である平成22年3月21日から、各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
      
第4 結論
      よって、原告の請求は主文の範囲内で理由があるのでこれを容認し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文を、仮執行の宣言につき同法259条1項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
      
裁判官 郡司英明



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