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2016年3月 2日 会社の代表取締役の死亡による逸失利益について現実の報酬を基礎として算定された事例

交通事故に関する損害賠償請求事件

札幌地方裁判所判決/平成7年(ワ)第5132号
平成9年1月10日
会社の代表取締役の死亡による逸失利益について現実の報酬を基礎として算定された事例
民法709,自動車損害賠償保障法3

 

 

       主   文

 1 被告は、原告X1に対し4079万2640円、原告X2及びX3に対し各2039万6320円、及びこれらに対する平成6年7月14日から支払済みま  で年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用はこれを10分し、その4を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

       理   由

第1 請求
   被告は、原告X1(以下「X1」という。)に対し6366万1611円、原告X2(以下「原告X2」という。)及び原告X3(以下「原告X3」という。)に対し各3183万0805円、及びこれらに対する平成6年7月14日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
   本件は、信号機により交通整理の行われている交差点を青色表示に従って直進して通過しようとした普通乗用自動車が、左方から赤色表示を無視して同交差点に進入してきた普通乗用自動車に衝突され、被害車両の同乗者が死亡した事故につき、被害者の妻子が、自賠法3条、民法709条に基き、加害車両の運転者に対して損害の賠償を求めた事案である。
1 争いのない事実等(証拠を掲げた事実以外は争いのない事実である。)
(1)交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
  ア 発生日時 平成6年7月14日午前6時35分ころ
  イ 発生場所 札幌市中央区北4条西1丁目4番地
  ウ 加害車両 被告が運転していた普通乗用自動車
  エ 被害車両 A(以下「A」という。)が同乗していた普通乗用自動車(札51の1669)
  オ 事故態様 被害車両が信号機により交通整理の行われている交差点を信号機の青色表示に従い東から西へ直進通過しようとしたところ、被告が信号機の赤色表示を無視して加害車両を南から北へ運転して交差点に進入し、被害車両に衝突した。
  カ 結果 Aは、外傷を負い札幌市立病院に入院したが、平成6年7月14日午前7時34分、外傷性ショックにより同病院で死亡した。
(2)法定相続
   原告X1はAの妻、原告X2(昭和34年11月8日生、甲3)及び原告X3(昭和38年5月20日生、甲3)はいずれもAの子であり、ほかにAの相続人はいない。したがって、原告X1、原告X2及び原告X3の各相続分は、順に2分の1、各4分の1の割合である。
(3)責任原因(自動車損害賠償保障法3条、民法709条)
   被告は、加害車両を自己のために運行の用に供しており、赤信号の表示に従って停止すべき義務に違反した過失により本件事故を発生させた過失があるから、自賠法3条、民法709条により、原告らの損害を賠償する義務がある。
(4)損害の填補
   原告は、被告から損害の填補として12万1838円の支払を受けた。
2 争点
  損害額全般

第3 判断
1 損害額(各費目の括弧内は原告ら請求額)
(1)Aに生じた損害
 ア 治療費(12万1838円)
12万1838円
   Aは、平成6年7月14日、札幌市立病院に入院して治療を受けたところ、その治療費は12万1838円である(争いがない)。
 イ 逸失利益(8023万9824円)
4818万5280円
 ① 証拠(甲3、9、10、11の1、2、14ないし16、18ないし21、23ないし26、28、29、31、証人B)によれば、次の事実が認められる。
 a. Aは、本件事故当時61歳(昭和8年1月16日生)の健康な男性で、昭和27年4月に家具製作所に職人として就職し、昭和31年4月には独立してEを創業し、昭和41年8月にはEを法人化して株式会社を設立して紳士服や婦人服等の衣料品の販売も手がけるようになり、昭和58年2月にF株式会社の商号をG株式会社(以下「G」という。)に変更した。平成元年には出資者を募って温泉ホテルの経営を目的とする株式会社H(以下「H」という。)を設立し、また、平成3年には、赤字が累積した有限会社の出資全部を引き取って有限会社のI(以下「I」という。)に商号を変更し、平成5年にはGで扱っていた高級婦人服部門等を扱うようになった。
 b. Aは、Gの発行済株式総数4万8800株のうち2万8800株(Aの家族が所有する分も合わせると3万4259株)を、Hの発行済株式総数406株のうち80株をそれぞれ保有し、Iについては出資口すべてを保有するとともに、本件事故当時、右三社のいずれにおいても代表取締役をしており、業務全般の調整・総括から仕入れや現場の指導まで業務全般に従事していた。
 c. Aが死亡する前3期のG、I及びHの各業績(1万円未満切捨)はGにおいて、第26期(平成3年2月1日から平成4年1月31日)が売上高13億7071万円、営業利益4437万円、経常利益243万円及び当期純利益583万円、第27期(平成4年2月1日から平成5年1月31日)が売上高11億8654万円、営業利益3326万円、経常利益1545万円及び当期純利益388万円、第28期(平成5年2月1日から平成6年1月31日)が売上高10億2189万円、営業利益197万円、経常損失1842万円、当期純損失1541万円であり、Iにおいて、第4期(平成3年2月21日から平成4年2月20日)が売上高9779万円、営業損失611万円、経常損失700万円、当期純損失700万円、第5期(平成4年2月21日から平成5年2月20日)が売上高3233万円、営業損失575万円、経常損失576万円、当期純利益45万円、第6期(平成5年2月21日から平成6年2月20日)が売上高1億2993万円、営業利益1755万円、経常利益1666万円、当期純利益1601万円であり、Hにおいて、第3期(平成3年5月1日から平成4年4月30日)が売上高1億2996万円、営業損失734万円、経常損失1335万円、当期純損失1335万円、第4期(平成4年5月1日から平成5年4月30日)が売上高1億3828万円、営業利益846万円、経常利益119万円、当期純利益119万円、第5期(平成5年5月1日から平成6年4月30日)が売上高1億4467万円、営業利益447万円、経常損失235万円、当期純損失235万円であった。
 d. Aは、平成5年度は、Gから840万円、Iから120万円の合計960万円の報酬を受けており、Hについては、経営が黒字になるまでは役員報酬の受取を辞退するとの意向から報酬を受取っていなかった。同年度において、GでAに次いで収入の高い専務取締役であるB(以下「B」という。)の収入は517万5000円であり、Bは、IとHの取締役も兼任し、Iから96万円の報酬を受けていた。
 e. Aには身内にこれといった後継者はおらず、Aが死亡したため一時的にその妻がG及びIの代表取締役に就任したが、その後はBがGの代表取締役に就任し、平成7年からはIの営業をGが行っている。なお、本件事故当時、原告X2はすでに婚姻をし、Aとは生計をともにしていない。
 ② これらの事実によれば、Aは、本件事故により死亡しなければ、満61歳から満71歳まで平均余命19・66年(平成6年簡易生命表)の約2分の1である10年間は働くことが可能であったと推認され、その間、少なくとも年収960万円を下らない収入を得ることができたと認めるのが相当である。そして、Aの年齢、稼働状況や家族構成等を考慮すると、その間の生活費として3割5分を控除するのが相当であるから、それらを前提に、ライプニッツ方式(係数は7・722)により年5分の割合による中間利息を控除し、Aの死亡当時における逸失利益の現価を算定すると、4818万5280円となる。
9,600,000×(1-0.35)×7.722=48,185,280
 ③ 原告らは、Hにおいて、平成6年6月23日に開催された取締役会において、翌7月からAに対して月額35万円の役員報酬を支給することが決議されていたのであるから、Aは本件事故に遭わなければこの分を加えた1380万円を下らない年収を本件事故から11年間にわたって得ることができたと主張し、証人Bも、Aは、Hについては、経営が黒字になるまでは役員報酬を受け取らないとの意向から無報酬であったが、平成6年6月23日の取締役会において、減価償却等の損失分がそれほど大きくなく、第4期及び第5期の営業利益が黒字であったことから多少利益を生じる見通しがついたので月額35万円の役員報酬を支払うことにし、取締役会議事録(甲12)を作成する間にAが本件事故により死亡したと、おおむねこれに副う供述をし、同趣旨のB及びCの各陳述書(甲29、32)も存在する。しかしながら、Hの業績について、たしかに第4期及び第5期と営業利益は出ているものの、第5期の方が半減し、第4期のわずかな経常利益も第5期では損失になっており、取締役会議事録作成の時期や体裁(同一人物が各取締役の署名をしている。甲12)を併せ考えると、B証言やそれと同趣旨の前記各陳述書の信用性に疑問がないではなく、仮に信用できるとしても、右のとおりのHの業績に加え、経営が黒字になるまでは役員報酬を受取らないとのAの意向を総合すると、本件事故に遭わなければ、Aが今後もこうした報酬を受け続けることができたとまではいえないというべきである。もっとも、Aの業務内容に照らせば、Hからある程度報酬を受取ってもおかしくはないが、死亡当時は現実に受取っていなかったのであり、G、I及びHの当時の業績に照らして予測されるところの将来の業績や、Aの年齢に照らした就労可能期間や就労程度等の不確定要素をも総合考慮すると、Aは、本件事故に遭わなかったとして、原告主張の11年間はもちろん、平均余命の約2分の1である10年間であっても、その期間を通して死亡当時現実に得ていた年収960万円を上回る収入を得ることができたとまで推認するには足りないといわざるを得ない。他方で、被告は、後継者のいない中小企業の代表者の大半は年金の下りる60歳まで現役で働き、その後は会長等の名誉職的立場に退いて実質的には働かないのであるから、就労可能年齢は67歳までとし、60歳から67歳までは賃金センサスによるべきであると主張するが、後継者のいない中小企業の代表者の稼働状況を裏付ける証拠はなく、Aは本件事故当時すでに60歳をすぎて健康かつ現役で働いていたのであるから、被告の主張は採用できない。被告は、会社役員の報酬中には、労働の対価以外に持株に対する利益配当部分が含まれており、役員が死亡した場合、その部分 については、株式の相続人が利益配当として取得できるから、損害が発生したとはいえないとも主張するが、Aの稼働状況及び年収、Bの年収との対比、G及びIの業績等に照らすと、かえって、死亡当時得ていた収入は、すべてAの労務の対価であると評価するのが相当である。したがって、この点においても、被告の主張は採用できない。
 ウ 慰謝料(2700万円)
2400万円
   Aの受傷内容、死亡に至る経過、年齢及び家庭環境等の諸事情に加え、本件事故の態様をも考慮すると、本件事故による受傷及び死亡による慰謝料としては、2400万円が相当である。
(2)原告らに生じた損害
   Aの葬儀費(850万8560円)
200万円
   甲第13号証によれば、原告らは、Aの葬儀関係費用として850万8560円を支出したことが認められ、このような高額な費用がかかったのが、Aの年齢や職業上の地位(特に複数の企業の代表取締役であった点)によることは否定できないところであるから、このような事情をも考慮すると、本件と相当因果関係のある葬儀費用としては200万円が相当と認められ、弁論の全趣旨によれば、原告らはそれを各相続分に従った割合で負担したものと認められる。

2 損害の填補
  原告らは、本件事故に関して自動車損害賠償責任保険からAの治療費として12万1838円の支払を受けており、弁論の全趣旨によれば、それは、原告らが有する損害賠償請求権にその相続分に従った割合で充当されたものと認められ、その結果、原告らが被告に対し、損害賠償として請求しうる金額は合計7418万5280円(原告X1が3709万2640円、原告X2及び原告X3が各1854万6320円)となる。

3 弁護士費用(原告X1につき578万7419円、原告X2及び原告X3につき各289万3709円)
  原告X1につき370万円、原告X2及び原告X3につき各185万円。原告らは本件損害賠償請求事件の追行を原告ら訴訟代理人に委任し(争いがない)、本件における認容額、審理の内容及び経過等に照らすと、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用としては740万円が相当と認められる。そして、弁論の全趣旨によれば、原告らはこれを各相続分に従った割合で負担したものと認められるから、その負担額は、原告X1が370万円、原告X2及び原告X3が各185万円である。

第4 結論
   以上によれば、原告らの各請求は、被告に対し、原告X1につき4079万2640円、原告X2及び原告X3につき各2039万6320円とこれらに対する平成6年7月14日(本件事故発生日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官山崎秀尚)



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